ふわっとみずみずしいクラムに、窯伸びしてクープがぱっくり開いた美しいダークブラウンのサクサクしたクラスト。
もちろんそれだけが美味しいサワードウブレッドの条件ではありませんが、往々にしてそのような見た目のパンは、種(スターター)が元気であり発酵が適切にされているからこそ出来上がるものなので、風味豊かで美味しいパンであることが伝わってきます。
私もまだまだ手探りの状態ではありますが、上手く膨らまない時の対処法に関する質問をよく受けるので、以下にチェック項目と対応方法を並べてみました。
1.種の元気がない
種の元気がなかったり、フィーディング(元種に粉と水を混ぜること)をして活性のピークに達していない、あるいはピークが過ぎてしばらく経ったものを使うと膨らみが不十分になりがちです。 <対応策> ・種の元気がない場合、フィーディングする時に石臼引きの粉やミネラル豊富な硬水を使ったり、オーガニックの全粒粉や砂糖を加えるなどしてスターターに栄養を与える。(2~3回続けると種が安定します) ・リフレッシュ時に使用する水は22~27℃、室温は22~24℃になるように調整する。 ・種と粉と水を混ぜる際、酸素を加えるように勢いよく混ぜてみる。 ・元気な酵母はピークに達するとスタート時点から2~3倍になり、表面全体がもこもこしているので、そのタイミングで生地に混ぜることができるように時間を逆算して種づくりを行う。 ・酵母がピークに達しているか確認するために、フローティングテストをしてみる。(下記写真参照) ※ただし、かき混ぜる等なんらかの圧力で種の空気が抜けてしまうと、水に浮かなくなってしまうこともあるのでご注意下さい。
2.使っている粉の質
使用している小麦粉のたんぱく質量が多すぎたり低すぎたり、またはグルテンの形成が弱い粉(例えば、全粒粉・ライ麦・スペルト粉など)を使用すると、詰まったクラムのパンになる傾向にあります。 また、同じたんぱく質量の強力粉同士を比較しても、グルテンの質が異なり膨らみやすいものとそうでないものがあるので、色々な粉を試して好みのものを見つけることをお勧めします。 <対応策> ・強力粉の割合が多いパン(目安は全体粉量の80%以上)を作る場合、たんぱく質量100gあたり12.5~13.4gの強力粉に変えてみる。 ・グルテンの形成が弱い粉の割合が多いパンを作る場合、混ぜる強力粉はたんぱく質100gあたり13.5g以上の最強力粉を使ってみる。 ※粉が持つグルテンの質によって生地の強度が異なるので、たんぱく質量はあくまでも目安です。
以下は、日本でサワードウブレッド(ハード系パン)を作る時に私がよく使っている粉です。
食パンやベーグルなど、いわゆるハード系パンとは異なる食感のパンを作る際は、作りたいものに合わせて春よ恋などを使っていました。
3.発酵温度が低すぎる、または高すぎる
発酵段階の温度が低すぎると発酵不十分で目の詰まった膨らまないパンになり、また高すぎても気泡だらけでシュワシュワした味気のない過発酵パンになってしまいます。 <対応策> ・室温や加水の温度を確認しながら、生地の発酵温度が最適な状態になるように調整する。(以下参考)
温度 | 酵母やイースト菌の働き |
5℃以下(冷蔵庫内) | イースト菌は不活性化するものの、旨味や風味は創出され続ける。 |
5℃ー20℃ | イースト菌の活動が大幅に減り、ゆっくり時間をかけて少しずつ発酵するため、発酵不足にならないように注意する。 |
20℃ー27℃ | イースト菌が活発になり、発酵が進みやすく、豊かな風味を産みだす。 (★私はいつもこの温度帯で発酵を促すようにしています。) |
27℃ー35℃ | イースト菌の活性に最も適した温度帯。発酵も早くなるので過発酵にならないように注意する。 |
35℃ー50℃ | イースト菌の活性が非常に早くなる。 (敢えてこの温度帯でパンを作る方法もありますが、長時間発酵のメリットを享受するため、こも温度帯は避けるようにしています。) |
50℃以上 | イースト菌が死滅する。 |
料理用の温度計があると生地温度を確認するのに便利です。
4.焼成時の蒸気が不十分
焼成時の蒸気が不十分であると、パンの表面の乾燥が早まり窯伸びする前に固まってしまいます。 <対応策> ・焼成前にパンの表面に霧吹き等でミストをかけて湿らせる。(かけすぎると生地がべったりして逆に膨らまなくなるので要注意。) ・蓋がしっかり閉まるキャストアイロン鍋やダッチオーブンを使う。 ・鍋を使用しない場合、予熱設定温度を焼成温度よりも30℃ほど高く設定し、パンをオーブンにセットしたらオーブンの電源を切り、5分ほど庫内に放置する(表面の乾燥を避けつつ生地の温度をあげるため。)。その後、再び電源を入れて焼成を開始する。 ・オーブンのミスト機能を使う。ミスト機能がない場合は、下段に天板を置いて同時に予熱し、焼成開始時にコップ1杯程度の水を加えて蒸気を発生させる。
5.オーブン庫内の予熱が不十分
オーブンの予熱完了アラームが鳴ったものの、特に高温設定の場合に上げたい温度まで十分に上がっていないということがよくあります。 これまでの経験上、特に電気オーブンにそのような傾向が見られました。 庫内の温度上昇が不十分のままだと窯伸びするはずのパンが膨らむ前に固まってしまいます。 <対応策> ・オーブン専用の温度計で温度を確認しながら焼成する。 ・温度計を使用しない場合は、予熱時間を長めにとったり、予熱の設定温度をマックスにして焼成開始と同時に設定温度を下げるなどの工夫をする。 (予熱時間の目安は、電気オーブン1時間、コンベクションオーブン30~45分)
Cotoさん、こんにちは!いつも参考にさせていただいてます(ありがとうございます)これから、日本の暑い夏がやってきますが、温度管理どうしたら?と思う時があります。仕込み水を冷やしてみるとかでしょうか?また、生地の温度が27を超えてしまった場合、適正温度に下がる位になるまで、少し冷蔵庫で休ませるなどもアリなのでしょうか?お時間のある時に、教えていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
なべさんこんにちは!
早速記事をご覧いただきありがとうございます。
既に日本は30℃を超える地域もでてきているようですね。夏場はあっという間に生地温度が27℃を超えてしまって、うっかりすると過発酵になりがちですよね。
私の場合、生地の温度をコントロールするために水や粉をあらかじめ冷やしておいたり、途中で生地の温度が上がりすぎてしまった場合は冷蔵庫や保冷剤で冷やしたりといったことをしています。
温度管理が難しい季節になりますが、あれこれ工夫しながら乗り切っていきましょう~!
cotoさん、早速のご返信、ありがとうございます。嬉しいです!保冷剤もいいんですね!参考になります。あれこれ、工夫しながら、楽しくやっていきます